サーモン養殖のマメ知識

サーモン養殖と餌

水産飼料の業界では、BIG3(スクレッティング社、BIOMAR社、EWOS社)と呼ばれる企業が存在し、この3社を中心として飼料研究が進められています。例えば、より養殖効率の良い飼料や環境負荷の少ない飼料、調達がひっ迫する魚粉や魚油原料の低減を通じて原料価格の高騰にも耐えうる飼料など、様々な観点からの開発が継続的に行われています。

餌の成分は何?

サーモンの飼料はタンパク質と脂質を主な成分としています。ちなみにサーモンは炭水化物を栄養にしません。動物性たんぱく質であれば主に魚粉やチキンミール、植物性たんぱく質であれば大豆やトウモロコシを原料としています。
飼料全体に占める魚粉の割合は重要な要素の一つです。これは、国内だと25%~50%、養殖先進国のノルウェーなどでは15%~20%程度になっています。

増肉効率の良い
餌とは?

成長段階に合わせたバランスの良い餌が必要なのは当然として、増肉効率の観点からは、高カロリーの餌というのがポイントになります。カロリーは脂質の量が影響するのですが、脂質の主な原料は魚油になります。デンマークではより脂肪分の多い高カロリーの餌を使用しています。脂肪分の多い飼料を作るためには魚油を多く含む餌を作るための設備やノウハウが必要になるのですが、養殖先進国はその点で日本の先を行っていると言えます。デンマーク子会社のMusholmは日本サーモンファームよりもFCRが2割ほど良いのですが、その理由の一つはこの飼料の差にあると言えます。

自動給餌に
適した餌とは?

以前は餌を手で撒いていましたが、近年は餌をエアーで飛ばして給餌する自動給餌機も増えてきました。
エアーで飛ばす自動給餌には、粉々にならずに塊の状態で飛び散る弾力性のある飼料が適しています。
飼料の製造では、原料を配合し、混錬、加熱、加圧といった処理をしていくのですが、これらの製造工程のなかで飼料の弾力性が決まっていきます。
日本サーモンファームの場合、現在、粉化率が1%程度となっています。粉化率の改善はFCRの改善にも直結しますので、今後も無駄を出さないよう改善を続けていきます。

循環型養殖場に
適した餌とは?

水をろ過システムで循環させて再利用しながら養殖を行う方法を循環型養殖と言います。循環型養殖では生物ろ過で水を浄化します。生物ろ過は、水を綺麗にしてくれる有用なバクテリアの力を借りて行うろ過方法です。このバクテリアは生体の代謝によって生じたアンモニア内の窒素を、比較的無害な亜硝酸塩や硝酸塩へと変えてくれます。そのため、養殖魚から代謝される窒素の量が少ない、すなわちろ過の負荷が小さくなる餌が都合が良いということになります。加えて、餌由来のリンの蓄積も魚にとって影響を与えます。窒素やリンはタンパク質(特に魚粉)に多く含まれるので、この観点からはたんぱく質を減らして脂肪が多い餌が適しているということになります。
また、排泄物が塊で排泄されるとフィルターで補足しやすく、排泄物に含まれる窒素やリンを早急に回収できて水が濁りにくくなるため、増粘剤を含んだ餌も適しています。

へい死率を下げる
餌とは?

養殖効率を上げるためにはへい死率の改善は不可欠ですので、へい死率の低下に繋がる飼料はとても有効です。
へい死が大きく増えるのが馴致時です。馴致では淡水から海水へと環境が急激に変わりますので、魚にとってもストレスがかかります。このストレスに耐えられずにへい死してしまう魚が増えるのです。なので、馴致時のストレス耐性が強くなる餌=へい死率を下げる餌、ということになります。これに関しては、ビタミンをバランスよく摂取させられる飼料が適していると言えます。

※馴致とは、淡水養殖から海水養殖に移る段階で、淡水から徐々に塩分濃度をあげて海水の塩分濃度に馴れさせていく作業を言います。

魚粉比率を抑えた
餌とは?

SDGsの観点(海の豊かさを守ろう)からは、天然の水産資源の費消を抑えるよう、魚粉比率の低い餌が良いように思ってしまいます。でも、実は必ずしもそうではありません。
単純に魚粉比率を下げて成長のための栄養が不足してしまうようなことになると、養殖魚が大きくなりません。SDGsの観点からは、飼料として消費した天然魚との比較で、より多くの養殖魚を収穫することが大事になります。単純に魚粉比率だけを下げてしまうと収穫量が減って逆効果になってしまうのです。魚粉比率の低減と養殖魚の成長のバランスをとっていくことが大事ということです。
ちなみに養殖先進国は日本よりも魚粉比率の低い餌を使っています。日本の餌の魚粉比率は25~50%なのに対し、ノルウェーは15~20%です。それでも成長のための十分な栄養を供給し、効率的な養殖を達成しています。まさに養殖先進国たる所以がここにも垣間見えます。